~右耳を誰かのために~

アウトプットも兼ねて、要約筆記者が発信します。

聴覚障害と発達障害 ~聴覚障害者の精神保健福祉を考える研修会2018~

2018年8月。

社会福祉法人聴力障害者情報文化センター主催

聴覚障害者の精神保健福祉を考える研修会2018 ~聴覚障害児・者の発達スペクトラムと共生社会 その人らしさを理解するために~」に参加しました。

8月11日&12日に開催され、今年で8回目の開催です。

 

昨年も参加した研修会です。

今年は居眠りせずに起きていたので、記事がわりと長めです(*´Д`)

yamahoo.hatenablog.com

 

 

 

オキシトシンによる治療の試みについて

「わかりあう難しさの脳基盤とオキシトシンによるその治療の試み」

というタイトルで、浜松医科大学精神医学講座教授の山末英典先生による講演でした。

自閉スペクトラム症に対する治療薬候補である「オキシトシン」の点鼻スプレーを応用し、世界に先駆けてASD自閉スペクトラム症)の治療薬を開発する取り組みの紹介しました。

 

ASD自閉スペクトラム症)とは、『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版(DSM-5)における、神経発達症群に分類されるひとつの診断名で、コミュニケーションや言語に関する症状があり、常同行動を示すといった様々な状態を連続体(スペクトラム)として包含する診断名である。

(出典:Wikipedia

 

ASDには①社会的コミュニケーションの障害、②興味の限局、反復的常道的行動(変化に対応できない)が中核症状としてあり、表情や視線、声色などの非言語情報、意思疎通に対する障害が特徴として挙げられるそうです。

世界的には80人に1人がASDと診断されているそうですが治療法がなく、現代医学では解決できないニーズとして医学界では扱われているそうです。

ASDの治療薬候補としてオキシトシンという下垂体後葉ホルモンがあり、その作用は表情を読み取る能力を高め、オキシトシンの遺伝子が脳に協調性や社会的行動力を高めるそうです。

疫学的にも男性より女性の方が3~9倍オキシトシンの受容体があり、協調性・社会性が高いらしいです。

日本医療研究開発機構 脳科学研究戦略推進プログラムでは、東京大学、金沢大学、福井大学名古屋大学と共同で臨床試験を行い、オキシトシンの投与により①ADOS(コミュニケーション、常道高騰と限定的興味の項目)と②視線計測(話しかけられる際に相手の目元を見る時間の比率)を測定しました。

オキシトシンの投与により相手の目元を見る時間が改善され、ASDの中核症状の改善が期待できるものであったようです。

現在は国家予算で治験によるデータを集めて保険適用を目指しているそうで、通常の診療や診察でオキシトシン点鼻スプレーを使用した新薬治験を実施しています。

 

私見としては聴覚障害者とASDオキシトシンの関連性を理解することが難しい内容でした。

聴覚障害者が人の表情のような非言語情報と通訳後の情報を正確にマッチングできているかがポイントになると感じましたが、マッチングできていないのであれば、我々要約筆記者がASDに該当すると判断していいのか?と感じました。

我々はあくまで”その場の情報保障”を行う通訳者であって臨床する立場にはないので、このテーマを持ってきた主催者の意図が私には分からなかったです。

但し次の倉知先生の講演内容を聴くと、山末先生の講演が今年の研修会の導入部分に当たるのだなと後で気付きました。

 

発達障害者への就労支援の課題

「精神保健福祉の今 発達障害者への就労支援の課題」

というテーマで、九州産業大学人間科学部教授・日本手話通訳士協会理事の倉知延章先生による講演でした。

 

発達障害者に対する就労支援現場の生の声でした。

倉知先生はJEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)での障害者職業カウンセラー、精神障害者地域生活支援センター長などを歴任され、大学でPSW精神保健福祉士)の養成に携わっている方です。

2017年度にハローワークを通じた就職件数のうち、精神障害者の割合は46.14%であり、障害者の中で最も高い比率です。

その一方で働いている障害者のうち身体障害者が67.1%、知的障害者が22.6%、精神障害者が10.1%であり、就職率の高さと比べると定着率が低く、就職後の継続が課題と言われています。

そもそも精神障害者障害者基本法で分類されている発達障害者のことで、障害者雇用促進法では精神障害者保健福祉手帳所持者のことを指します。

発達障害者は発達障害者支援法に記載があり、山末先生の講演でも触れたASDも含まれます。 

 

聴覚障害者と発達障害者にとっての職業生活上障害のうち似ている部分があり、情報障害と認知機能障害により対人技能(場の空気を読むなど)や作業能力(複数の課題を理解するなど)が健聴者と差が生じ、職場で孤独を感じて孤立、相談援助が受けにくい現実があるようです。

この問題に対する支援方法として、障害者が職場で働く前に支援者が自ら職場へ出向き、就労支援の整備や企業に対して就労支援を理解させる取り組みを行っているそうです。

障害を持つ本人の「やってみたい」という気持ちを尊重して体験の機会を作り、「今はできない」から「自分のできる範囲でやる」ことを学んでもらいます。

成功と失敗の体験をとおして仕事に要求される能力と自分の能力のギャップを理解し、長所や強みと共にレベルアップへの可能性を本人と話し合い、方向性を決めていくそうです。

一方企業側に対し、作業手順書作成や職場での支援方法の検討、採用計画・採用時・採用後などの専門的な支援を行い、従来起こっていた採用回避や障害者の早期退職を防ぐ活動を行っています。

 また「この人はここまでしかできない」という考え方は支援の度合いが止まる先入観であり、時代によって障害者ができる範囲が変化し増えているため、支援者の評価・予測は当たらないそうです。

 

アメリカで開発された個別就労支援のモデルが紹介されました。

IPS(Individual Placement&Support)モデルと呼ばれ、重度精神障害者の就業率を高め、長く働けることが実証されている援助付き雇用モデルの原則だそうです。

〇症状・障害が重いことを理由に支援対象外としない

〇就業支援と医療保健の専門家が強固に連携してチームを結成

〇短期間・短時間でも一般就労を目指す

〇能力・適正でなく本院の興味や洗濯に基づいて仕事を探す

〇施設内での訓練やアセスメントは最小限に

〇就職後のサポートは継続的に

〇生活支援・年金等経済的な側面の支援も行う

(出典:配布資料)

 

発達障害児への学習活動

発達障害児への学習活動 ダンボの取り組みについて」

というテーマで、筑波技術大学講師の大鹿綾先生による実践報告でした。

 

「ダンボ」という学外学級で、発達障害のような困難のある聴覚障害児を対象とした教育臨床活動です。

本人の得意なことと苦手なことを整理し、上手くいく方法を考えさせ、月2回の活動で成功体験を積む場所であることがダンボの目標です。

普通学級ではなかなか出来なかった障害児同士による共同作業やリーダーシップを体験し、保護者や学校の先生と連携してトライアンドエラーを繰り返すことで本人の可能性を広げる場として注目されています。

 

支援の現場から

「支援の現場から ~発達障害精神障害を併せ持つAさんの事例報告」

というテーマで、社会福祉法人京都聴覚言語障害者福祉協会 京都市西ノ京障害者授産所青空工房の田中規子さんによる講演でした。

 

この話に登場する中途失聴者のAさんは統合失調症と診断された50代の女性で、身体障害者6級と精神保健福祉手帳2級に該当します。

学歴と結婚時の裕福な生活から自己評価が高く、また”障害があるから”・”うつ病だから”といった自己防衛が見られ、思い込みが激しい偏った考え方を持っているそうです。

現場ではAさんの先入観を崩すための工夫として、支援者間の方向性を統一し、支援者によって異なる考え方が生まれないような体制を取っているそうです。

 

聴覚障害者のメンタルヘルスとケア

聴覚障害者のメンタルヘルスとケア ガイドブック発行によせる思い」

聴覚障害者のメンタルヘルスとケア 適切なサポートのために』の発行によせる思いというテーマで、編集委員長である双葉会診療所院長の片倉和彦先生と聴力障害者情報文化センター 聴覚障害者情報提供施設長の森せい子さんによる講演でした。

 

この本は精神科医臨床心理士言語聴覚士PSWなどの聴覚障害者のメンタルヘルスや精神保健福祉に20年以上関わってきた人たちによる支援現場の理解、困難性を身をもって背負い、体験してきた話が詰まった1冊となっています。

興味があったので会場で購入しました。

 

ある言語聴覚士の方が質疑応答の時間でこんなことを仰っていました。

この方が勤務されていたことのある医療機関では手話や聴覚障害者に対応できる体制が取られておらず、他の医療現場でも同様に体制の整備が浸透していないことがあるそうです。

言語聴覚士として活躍できる場が少ないということをお話しされていました。

耳マークを掲示して筆談を取れる病院をよく目にしますが、私としては意外だなと思いました。

 

東京の要約筆記に対する講評

今年の研修会でも情報保障として手話通訳と要約筆記が準備されていました。

その要約筆記で非常に気になることがありましたので、一人の要約筆記者として申し上げたいと思います。

 

4人1組で各日程で異なるメンバーが派遣され、恐らく15文字を6行表出する設定でIptalkを使用していました。

私が気になったのは、表示部に表出された文字をバックスペースしていた頻度、特に2日目です。

IptalkではファンクションキーのF9を押すと表示部に表出された1文が丸ごと自分の入力部に戻ってくる機能があります。

会場ではバックスペースを押すかのように、1文字ずつ表示部から戻す(消す)行為が何度も見受けられました。

一度表出させた文章をどういう意図で戻したのかは分かりません。

文章を作り直し(再構築)、再表出するのならまだ許容範囲かなと思いましたが、1文字ずつ戻しただけで何も表出しなかったときは目を疑いました。

年に1回の開催で且つ専門性の高いこの研修会では、手話通訳士さんも苦労されている様子を目にしていたので、スクリーンに投影されると良くも悪くも目立ちます。 

Iptalkに何故入力部があるのか分かっていないのか、もしくは慣れていないのか知りませんが、今回派遣された要約筆記者は表示部に直接入力しているのかと感じた瞬間でした。

 

最後に。 

今年は体調不良のため懇親会には参加しませんでした。

でも山梨の手話通訳士さんと久しぶりにお会いでき、非常にお世話になっている方なのでいくつか近況報告させていただきました。

そして他県の方とお話すると情報の出入りが激しく、有意義でした。

この方にお会いできたのは山梨に旅行に行ったとき以来です。

 

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最後まで読んでいただきありがとうございます。

さあ、来年はどうしよう。