~右耳を誰かのために~

アウトプットも兼ねて、要約筆記者が発信します。

第8回パソコン文字通訳シンポジウム

2018年1月。

全国文字通訳研究会主催の第8回パソコン文字通訳シンポジウム@東京都障害者福祉会館に参加しました。

 

全国文字通訳研究会とは、聴覚障害者の「話の全てを知る権利」を守るために要約筆記ではなく全文入力(以下、全文筆記)を追求・普及するために活動している団体です。

昨年偶然見つけたときには既に日時が過ぎていたので、今回はHPをちょくちょく確認して申し込んで参加してみました。

 

このシンポジウムのテーマは・・・

 

パソコン文字通訳者養成テキスト

全国各地で実施されている要約筆記者養成講座のサブテキストを作成したそうです。

中途失聴者・難聴者から全文に近い文字通訳環境を望む声が多いことから、全文筆記ができる通訳者育成に向け、実技に重点を置いたテキスト。

現在使用されている全要研の要約筆記者養成テキストとは異なり、平成30年春以降に開催される養成講座の指導用サブテキストとしての導入・採用を目指しています。

 

全国で活躍する講師の中でもテキストの製作経験のある要約筆記者が関わっており、現任のノウハウを散りばめているそうです。

キャッチコピーとして紹介されていたのは、「もう先輩たちの無駄を味わわせない!」だったと思います。

昨夏に全国各地の自治体担当者や養成講座の講師などの関係者にサンプル版を配布し、当時実施したアンケート調査の結果報告がありました。

「講師が自身の実力不足を補える」「副読本として入力技術・連係入力用の指導に適している」というような声があったそうです。

 

但し、全要研と連携していないような印象を持ちました。

全要研は指導者養成研修を毎年実施しており、私も昨年参加しました。

 

yamahoo.hatenablog.com

 

要約筆記者を一人前の講師としてレベルアップさせ、また養成講座の全国平準化に向けて活動しています。

指導者用テキストや指導計画を作り、要請があれば全要研講師団が各地に派遣されています。

 

このことを把握しながら、全要研の指導計画に追加した計画案を公表していました。

全要研と連携していないにも関わらず、目の前に迫っている平成30年春に対してどのようなスケジュール感を持っているのか非常に謎でしたね(´・ω・`)

 

 

講演:「これからの文字通訳に期待すること」

中途難聴者である弁護士の方が講演されました。

全要研の要約筆記者テキストを読み込んで、弁護士の立場として議論できることを論じていました。

 

地元香川県で起きた高松地方裁判所での裁判員裁判が例に出されました。

この裁判は刑事裁判で、裁判所は裁判員に対し手書き要約筆記を配置しました。

 

そもそも刑事裁判は刑事訴訟法上、証拠によって事実認定される証拠主義裁判。

裁判では口頭主義により口頭で陳述されたものが裁判の証拠・資料となり、最終的に判決が下されます。

裁判官と弁護士による専門的な内容が非専門家による要約で果たして伝わるのか、一人の弁護士として当時反対したそうです。

内容を理解して聞き手としての責任を果たしたいのに、何故それを非専門家の通訳者に委ねなければならないのか。

 

私は一人の法学部卒業生として、確かにそうだなと感じました。

法律関係で使用される文言は独特な表現で、見慣れていないと中身が頭に入らない印象を持っています。

しかしながら裁判があった当時、私は香川県の要約筆記奉仕員でした。

今もパソコン要約筆記者でもあるため、このときばかりは穴があったら入りたかったです(笑)

 

この方が言いたかったことは「手段に固執」せず、「聞き手、話し手の責任を果たす」ためにも何をしたいのか考え、自ら提案してほしいということでした。

情報保障の手段として、現在は手書き要約筆記、パソコン要約筆記、パソコンによる全文筆記、音声認識ソフトがあります。

最近話題の音声認識については少子高齢化による担い手不足と予算に対するコスト増を解消する手段として注目されています。

需要に対する支援を維持するために手段を選択できる以上、聞き手としての責任を果たすためにも積極的に選んでほしいとのことでした。

 

 

ログ問題について

こちらも中途難聴者である弁護士の方が登壇され、ログ問題に関して現在行われている議論の中間報告的な発表が行われました。

基本的には民法の問題だなと思いました。

 

情報保障で表出された文字情報であるログの著作権は、話者・主催者にあります。

但しそのログは要約筆記者のパソコンの内部にあるため、所有者は要約筆記者にあります。

「占有移転」しない限り、ログは話者・主催者のものになりません。

表示用PCやスクリーン、プロジェクターなどその他設備を主催者が用意・設置すれば著作権も所有権も主催者になります。

しかし現実に行っている都道府県は全てではありません。

健聴者と聴覚障害者が同席している会議であれば、健聴者を含む出席者全員の許可が必要となり、ログの著作権聴覚障害者に限りません。

 

全要研が通知した「ログを渡さない」という内容に対して全難聴があまり理解していない、考えていないため、今後は彼らにアプローチするということでした。

全要研は間違った要約筆記内容に責任を持てず、批判されることを恐れているそうです。

(・・・私は初めて聞きましたが。)

契約書や取り決めの中に免責事項を設けるなどの対応をすれば、全要研の心配は解消されるそうです。

 

 

率直な感想

パソコン要約筆記者に対するアウェー感満載のシンポジウムでした(*´Д`)

要約作業はあくまで通訳者が優先順位を決めた内容であるため、聞き手としての責任を果たせない。

全文筆記ができる技術や連係入力方法を養成するためにサブテキストが作成された、これが背景でした。

噂には聞いていたので購入して、時間を見付けて拝見したいと思います。

 

私も大学卒業時点では、要約筆記よりも全文筆記を主義としていました。

私は大学時代にノートテイクによる情報保障支援に携わりました。

 

yamahoo.hatenablog.com

 

学生の成績に悪影響が出ないように、また他学部の授業を要約する専門性を持っていなかったので、全文筆記を目指すことを疑っていませんでした。

当時はWordの下書きモードを使用し、外付けディスプレイを使って全画面表示で見てもらっていました。

しかし要約筆記ではIPtalkを15文字✖6列程度の文量で全体投影するため、大量の文章がスクロールされ続けることで決して見やすいものではなくなりました。

 

要約作業を行うため、専門外の話を適切に表出する上では理解する時間がほんの一瞬だけ必要になります。

連係入力はそれを補っていました。

単純に2~3時間全文を入力し続ければどちらが良いという議論はなくなるのでしょうが、恐らく多くの要約筆記者が専業ではない以上、体力が持たないと思います。 

そのことを踏まえると、入力に特化したテキストはノウハウを学ぶことができるため、非常にメリットがあると思います。

 

しかしやり方に問題があるという印象を持ちました。

全要研や文字通研を知らない人は両者の違いがよく分かりません。

また両団体に若手(40歳未満)が少ない、もしくは居ないのでは?という印象を私は持っています。

昨年いくつかの懇親会に参加したとき、若手をあまり見かけませんでした。

もし自分たちの世代が上に立つとき、各団体に何人くらい在籍しているのか心配になります。

 

人としての権利を求めることは当然ですし、将来世代のために今動ける人たちが動くべきであると思います。

しかしながら目標(求めている権利)が同じである以上、互いの主張を全ての基準に当てはめて活動するのはいかがなものかなと感じます。

詳細を全て把握してるわけではありませんが、今回のシンポジウムではこのことを特に感じました。